佐倉萌インタビュー『アンニュイでコケティッシュ ・佐倉萌のマルチな魅力』第3回
「愛くるしい瞳と、巨乳のミスマッチが男の下半身を奮い立たせる!」。エクセス作品『人妻不倫痴態 義母・未亡人・不倫妻』の2010年改題公開時にエクセスのサイトに掲載された佐倉萌の宣伝文である。佐倉萌は、その“アンニュイでコケティッシュ”な魅力で長年、ピンク映画ファンを文字通り奮い立たせてきたが、一方、映画デビュー作『雷魚』の瀬々敬久監督をはじめ、黒沢清監督、渡邊孝義監督、クロード・ガニオン監督など作家性の強い監督の作品にも出演し、映画界に異彩を放っている。今回は、そんな佐倉萌にじっくりと話を聞き、その魅力の一端を解き明かしたい。
インタビュアー 工藤雅典
第3回『ピンク映画での活躍開始とエクセス初出演!!』
【1.ピンク映画に舵を切る】
工藤:事務所を辞めてフリーになるのは『蜘蛛の瞳』をやった後ですか?
佐倉:そうですね。『雷魚』はロングランというか、色々な所で上映されて、湯布院映画祭にも行ったりしました。その頃、ピンク四天王の誰かが撮ると、その打ち上げに参加したりしていたんです。そうしてたら、ある打ち上げで『雷魚』で共演していた吉行由美(映画監督、女優 1965~)さんから、「ピンク映画に出ない?」というお誘いを頂いたんです。でも、サンミュージックブレインにいるとそっちの方向ではない別な道筋をつけられるイメージだったし、マネージャーに誘われて結んだ契約が2年で、契約満了という事で辞める事にしました。それで、その年の秋に吉行組に出演したんです。
工藤:そこでフリーになるかどうかは、割と大きな人生の選択だったね。
佐倉:そうですね。後は、亡くなったマネージャーの事が心残りというか、そのマネージャーがいなくて、事務所に居るというのはちょっときつかったのもありますね。それと、やっぱり魅力的だったんですね。国映の打ち上げなんかに参加すると、ほぼ全員ピンク業界の人じゃないですか。その中で話していると「ああ、私もやってみたい!」と強く思いました。
工藤:そうなんだ!
佐倉:ユーロスペースで、四天王の特集があると、全部見に行ったりして。
工藤:当時、ピンク映画をよく見ていたんだね。
佐倉:そうです。でもびっくりしたのは、吉行組の直後に池島(池島ゆたか 監督、俳優、プロデューサー 1948~)組にも出演したんですけど、あまりにも毛色が違いすぎて。さらにその後、エクセスで新田(新田栄 監督、俳優 1938~)組に出演した時は、「なんじゃこりゃ!!」という衝撃が(笑)。「そうか、ピンク映画ってこういう事だったんだ」って。
工藤:ハハハ。まあね、ピンクと言っても、四天王とか吉行さんみたいな作家性の強い作品と、新田さんみたいな、よく“量産型ピンク”みたいに呼ばれる作品と、大別すると二つあると言われるね。
佐倉:吉行組はおしゃれ系でしたから、新田組は、それはもう、衝撃でした。新田組に初めて行ったとき、『出張和服妻 ノーパン白襦袢』(1999年9月22日公開)ですけど、和服を脱ぐシーンで前貼りをしていたんですよ。そうしたら、監督が「何やってんだお前は!」みたいな。「ここは、絡むシーンじゃないから、ヘヤーを見せていいんだから」って。
『出張和服妻 ノーパン白襦袢』ポスター
出演中の佐倉萌
佐倉萌
工藤:ああ、なるほどね。
佐倉:「お毛毛を出しなさい!」みたいな事を突然言われたんですけど、「はあ!?」みたいな。「(前貼りに)隠れるように細く剃り過ぎて見せるモノがありません」という状態で。ですから、しょうがないんで、映らないように撮ってはもらったんですけど。
工藤:その細く剃ったのはいつ頃なの?『雷魚』の時とかは、そんな事無かったんでしょ?
佐倉:『雷魚』の時は、ヘヤーが映っていないですからね、基本的に。前貼りはしてましたけど。がっちり(野球のホーム)ベース型に(笑)。ショーツからはみ出さないようにという事でやってたら、出演を重ねて、ショーツがレースになってきたりすると、段々はみ出さないように前貼りの面積が狭まってきて。
工藤:話は少し戻るけど、その吉行組というのが、『新妻不倫 背中で感じる指先』(大蔵映画 1999年3月31日公開)だよね?
佐倉:そうですね。1998年の秋くらいに撮影してますね。これは、吉行由美さんと、林由美香さんが姉妹で、私が吉行さんの同級生という設定で。
工藤:そうですか。吉行さんが監督で、自分も出演してたんだね。後に佐倉さんも監督をする訳だけど、女性が監督するという事で、吉行さんの影響があったのかな?
佐倉:そうですね。それはありますね。この時は脚本が五代暁子(脚本家)さんでしたけど、吉行監督の演出のディテールが細かくて。例えば、電話をしながらショーツをはくとかのシーンでも、動きの一つ一つを細かく演出していただいて。
工藤:なるほどね。脚本家も女性だったし、女性を描くという事では、女性監督ならではの演出があったわけだね。まあ、監督の話は後ほどじっくり聞きます。
【2.エクセス初出演】
工藤:1999年3月公開の私の監督作『人妻発情期 不倫まみれ』について話を聞きたいんだけど。これが、エクセス初出演だよね。
佐倉:そうですね。その次が新田組でしたね。
『人妻発情期 不倫まみれ』現場スチール 小室友里と川瀬陽太
工藤:これに関しても佐倉さんが『こっくりさん』のオーディションを受けていた事が縁になるんだよ。この時、私は日活を辞めてフリーになったので、エクセスで撮らせてもらったんだけど、私もピンクは初めてだったんで、『こっくりさん』をやっていた日活のスタッフがキャスティングを手伝ってくれたんだよね。それで、佐倉さんをはじめ、川瀬(陽太)君とか、本多(菊次郎)さんとか、瀬々組つながりのキャスティングになったんだよ。それと、私の日活時代の作品に出てくれていた赤星昇一郎さんとか、当時のエクセスとしては異色のキャスティングだったんじゃないかな。
川瀬陽太と飯島大介
本多菊次郎と小室友里
川瀬陽太と赤星昇一郎
佐倉:私はオーディションでしたっけ?
工藤:いえ、決め打ちでしたね。『雷魚』を参考試写したかもしれないけど。
佐倉:ありがとうございます。『人妻発情期 不倫まみれ』では、川瀬陽太さんとの共演が印象的でしたね。国映チームの打ち上げとかに行くと、必ずいる「お兄ちゃん」みたいな存在でしたから。「川瀬さんかあ!」と思って。
佐倉萌と川瀬陽太
工藤:やりずらかった(笑)?
佐倉:いえ、交通事故に遭ったと思って(笑)。もう、これ一回だけなんです。あれ以降も、カラミのあるシーンでは共演したことないんです。
工藤:佐倉さんと川瀬君のシーンは、現場では、400フィート巻のフィルム1巻をまるまる使って4分くらいのワンカットで撮ったんだけど、編集で、少し短くしなければならなかったんで、カットを分けちゃってるんだけど、それは今でも少し残念なんだ。でも、すごく気に入ってるシーンだよ。
佐倉:この映画の主演の小室友里さん、当時AVで絶頂期だったじゃなかったですか。で、あれ日活でアフレコやったんでしたっけ?
工藤:そう。アフレコは日活撮影所だったね。
小室友里と飯島大介
小室友里と飯島大介
佐倉:スタジオに入る前に、乗用車で待機してる小室さんの姿が、忘れれらなくて。つかの間の休息だけど、これからのアフレコに集中するぞみたいな表情が凄く印象的でしたね。
工藤:そうなんだ。
佐倉:ふたり一緒のシーンは無かったんですけど、予告編で一緒に声を入れるんで、そこだけご一緒したんですけど。当時、本当に人気絶頂の方だったんで、やっぱりオーラが違うなあと思ったのを凄く覚えてます。
工藤:あと、朝吹ケイト(女優 1962~)さんも出てたよね。
佐倉:朝吹さんも、当時すごく注目してたというか「すごいお姉さんだなあ」と思って見てましたね。
朝吹ケイト
工藤:朝吹さんも当時、中々人気があったからねえ。
佐倉:でも、凄いキャストですよね。
工藤:これは、エクセスの直接制作だったからねえ。エクセスが直接制作したのは、後にも先にも、これと私が監督した次のと2本だけなんだよね。これは、言うと怒られちゃうんだけど結構お金がかかってます(笑)。
【3.エクセスでの活躍】
工藤:この後は、新田組を含め、たくさんエクセスに出るようになったよね。
佐倉:そうです、高橋講和(プロデューサー)さんのところ(コウワクリエイティブ、制作会社)が多いですよね。
工藤:『不倫まみれ~』の直後だと思うけど『女刑務官 美肉狩り』(1999年6月16日公開、監督 坂本太)が、コウワクリエイティブ制作だね。
『女刑務官 美肉狩り』ポスター
佐倉:はい。良く覚えてます。坂本(坂本太 監督)さんが、会うたびに、ニヒルな顔で憎まれ口を言うんですよ(笑)。すごくチャーミングな人なんですけどね。なんか兄貴分みたいな感じ。
工藤:そうだね。私も、後に、コウワクリエイティブの事務所で何度かお会いしていて、ちよっとイカツイ感じだけど、まさに兄貴分って印象だったね。
佐倉:これは刑務所の中の話なんですけど、主演が牧原美穂さん、当時週刊誌の「フライデー」を賑わせて人なんですけど、お芝居は全くの素人で…。
牧原美穂
工藤:エクセスはね、主演は、“初脱ぎ”と言って、ピンク映画には初出演の女優を迎える場合が多かったからね。主演は、演技の素人でも、周りをベテランの芝居が上手い人で固めるという方針だったんだね。
佐倉:ほぼ二人のシーンが、映画の中でほとんどなんですけど、“相手役をどう引き立てるか”を始めて考えた作品でしたね。
工藤:ほう、なるほどね。
佐倉:拷問されたりとか、自分の見せ場はあるんですけど、レズビアンシーンとかで、どう“この主演”を引き立てるかを考えてやってたのが凄く記憶にありますね。
工藤:レズのカラミではどんな事を意識したの?
佐倉萌と牧原美穂
佐倉萌と牧原美穂
佐倉:“私が”ではなく、主役をどう美しく見せるかという、“男役”に徹するというか。
工藤:なるほどねえ。男優が、どう女優を美しく見せるかというような発想なんだね。
佐倉:これ以降、レズビアン系ものをやっても私が“ネコ”ではなく“タチ”的な、お姉さま系とかが多いので、これが私のレズビアンの演技の出発点かなと思います。
工藤:“見せるからみ”という事を意識するわけだね?
佐倉:しますね、そこは凄くしますね。
工藤:『雷魚』の頃はそういう事は考えていなかったよね?
佐倉:考えてないです。相手役の事も考えてなかったですね。あの時、セックスの後に伊藤猛(俳優 1962~2014)さんの髪を手で撫でるシーンがあったんですけど、手がカメラにかぶって「顔が見えないよ!」って怒られました。
工藤:なるほどね。そういう意識の面でも長足の進歩を遂げてるわけだね。
佐倉:からみにしても、それまでは屈辱的なものは無かったので、拷問を受けて悶絶するとか屈辱的な描写はこの映画が初めてで、相手役が吉田祐健(俳優 1957~)さんだったのかな。それが、割と評判が良かったんですよ。それで、M女的な、屈辱的な役が増えたのもこの映画からですね。幸薄い系というか、まあ、『雷魚』も幸薄いんですけど。
拷問される佐倉萌
工藤:このキャスティングをしたのはプロデューサーの高橋さん?
佐倉:はい、そうですね。
工藤:私も、高橋講和さんには、お世話になって、コウワクリエイティブで、何本か撮らせてもらったんだけど、(高橋)講和さんはどうだった?
佐倉:講和さんは、もう、素敵なおじ様でした!!
工藤:ソフトでジェントルな感じだったよね。
佐倉:ソフトなんですけど、たとえば監督でお世話になった時に、どこまで甘えて良いのか迷う事があって。スタジオ代がとか高い時に、どうそれを捻出してもらったら良いか、私はあまり相談できないタイプだったんですけど、いつもニコニコしてらしたので、撮影が押したときにも(スタジオ代が)まだ大丈夫かな、まだ大丈夫かなみたいな(笑)。
工藤:予算管理に対しては、プロというか厳しい所があったよね。
佐倉:そうですね。でも、撮影が決まってない時でも、近くに行ったら事務所にお邪魔してお茶を頂いて帰ったりとかしてましたね。
工藤:面倒見の良い人だったよね。
佐倉:そうねすね。まあ、ソフトな声で「今回のギャラはこれだけなんだけど」って言われると「そうですか、仕方ないですよね。また次回お願いします」って(笑)。
工藤:ははは、まあ、人柄だよね(笑)。公開の順番としては、この『美肉狩り』の後に、新田組だよね。話は戻るけど、新田組の現場はどうでした?
佐倉:いやあ、もう、最初の一回目はびっくりの連続で、さっきお話した前貼りの件もあるんですけど、脚本の岡(輝男)さん、現場に付いていて、出演もしてるんですけど、現場の合間に市民プールに行って真っ黒に日焼けしてきて(笑)。
工藤:ああ、映画は見ました。真っ黒に日焼けしてカラミをやっていたね。
佐倉:そうでしょ!あまりに真っ黒で、突然そんな人が現れると、「なに、この現場?!」みたいな(笑)。
工藤:あれは、役作りだったのかな?
佐倉:ええ、役作りだったんですけど、ちょっとビビりましたね。後、新田監督が、主演の女優の方に、ちゃっちゃっと着付けをして。それが、ああ、凄いと。
工藤:新田監督は俳優出身で着付けも出来るんだよね。新田監督は、けっこう和服モノを撮ってたものね。でも、このシリーズで新田監督にもインタビューしてるんだけど、着付けは大変で、あまりやりたくなかったと言ってたよ。佐倉さんも着付けをする訳だけど、やっぱり和服モノは大変ですか?
『出張和服妻 ノーパン白襦袢』現場スチール 佐倉萌
『出張和服妻 ノーパン白襦袢』現場スチール しのざきさとみ
佐倉:着付けで現場に付く事もあるんですけど、和服でのカラミの撮影の場合は、まずテストで脱がされて、それを直してすぐ本番にいく事があるので、普通の着付けとは違ってちよっと特殊な着付けの仕方をするんです。
工藤:なるほど、脱ぎやすいように…。
佐倉:脱ぎやすいように、直しやすいようにという着付け方ですね。それと、本番で上手く脱げなくてNGだったら貴重なフィルムを無駄にしてしまう事にもなるので。
工藤:ピンクの場合、フィルムは貴重だったからね。
佐倉:そうですね、血の一コマなので。念入りにテストをして、襟の出具合を見たりするので、まあ、大変は大変ですよね。
工藤:ピンク映画のカラミの為の着付けは、普通の着付けとは違うんだね。
佐倉:違いますね。中には、長襦袢の下に腰巻をしなかったりとか、後は、お代官さまが、女性の帯をグルグルっと解くのをやりたいとか(笑)。
工藤:ああ、帯を引っ張って女性がグルグル回るあれね(笑)。
佐倉:ええ、和服も色々なやり方があって面白いですよ。
工藤:私も、和服モノを撮ったことがあるけど、和服は良いよね。洋服のカラミがつまらなくなるよね。二つ並べると。
佐倉:ええ。
工藤:そういう魅力がありますよね和服のカラミは。
佐倉:例えば、現場で、“足袋を脱がすか、脱がさないか問題”があるんですよね。私は、腰巻を脱がされたとしても足袋は履いたまま派なんです。
工藤:そっちの方が色気があると。
佐倉:そうそうそう。でも一方で、足袋を脱がして足の指を舐めるとかもありますけど(笑)。
工藤:洋服だってそうじゃない。裸でも靴を履いたままのカラミの方が色っぽく感じる場合もあるものね。
次回、第4回『エクセスの多彩な監督たちとの仕事!!』では、女優として成長してゆく佐倉萌の、佐々木乃武良監督、下元哲監督、北沢幸雄監督の撮影現場での秘話が語られます。乞うご期待!!
佐倉萌さんの監督作品『箱』が、2022年度 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭 ゆうばりチョイス部門での出品が決まりました。
写 『箱』現場スチール
映画祭は、7月28日から8月1日、Huluでオンデマンド配信されます。ぜひご注目を!!