浜野佐知監督インタビュー『男社会に喧嘩を売って半世紀!女性監督のピンク映画人生!!』第4回
昨年出版された『女になれない職業 いかにして300本超の映画を監督・制作したか。』が話題沸騰の浜野佐知監督。第1回、第2回が大好評を博していたエクセスインタビューの掲載を再開します。後輩監督に語られた、リラックスした浜野監督の言葉の数々には、著作とはまた違う浜野監督の素顔があります。今後、第5回まで掲載の予定。『女になれない職業』と合わせてお楽しみください。
第4回『監督の独自性と浜野映画』
【1.思い出深い女優・俳優】
工藤:思い出深い、女優・俳優を上げると誰になりますか?
浜野:やっぱり、豊丸(AV女優、1967~)かな。
工藤:エクセスの『豊丸の変態クリニック』(1988年)で、主演していますね。豊丸さんは、どうだったんですか?AV出身の女優さんですよね?
『豊丸の変態クリニック』(1988年)ポスター
浜野:AV界「第一次淫乱ブーム」の火付け役よね。「AVで私に何が望まれているか百も承知している。そこに私の価値があるなら、たとえ大根でもスリコギでもイッてみせる。それがAV女優としての私のプライドだから」って言うわけ。でもご本人はいたって礼儀正しくて、理知的な女性なのよ。
工藤:ほーっ。
浜野:ピンク映画はもちろん疑似だけどさ、カラミになると、もう本番さながらに「アグーッ、アグーッ」ってもの凄い声で喘ぐわけ。男優たちもビビっちゃってさ(笑)。男を怖がらせる女のセックスなんて、まさに今までの「マンコはチンコの為にある」という男の妄想をぶち壊すことだからね。これこそ私がやりたかったことで、こういう女優がいてくれたからこそ、「浜野ピンク」が成立したんだよ。
工藤:うーん。なるほど。
浜野:後は、エクセスに出てもらった女優では、貝満ひとみとかね。貝満は「ワニとファックした女」のキャッチフレーズで売り出した女優でね。
工藤:え? ワニですか?
浜野:カイマンだからね(笑)。まさか、本当にワニとファックしたわけじゃないと思うけど、『貝満ひとみ なんでもいらっしゃい!』(1991年・エクセス)の時は、蛸と亀を相手にしてね、もうすごいんだよ。全裸に生きた蛸を這わせるわ、それも蛸の足一本で股間が隠れるくらいの大きな蛸だからね。亀も大きなリクガメだったんだけど、平気で亀の頭を股間に突っ込んじゃうしね、見てる私の方が亀が窒息するんじゃないかってハラハラしちゃって(笑)。
『本番痴女 異常性欲』(1997年改題 原題『貝満ひとみ なんでもいらっしゃい!』)ポスター
工藤:確かに、すごいですね(笑)。
浜野:豊丸とはまた違うやり方だけど、二人とも「この業界で生き残ること」を計算し尽くしていたんだと思う。2本目の『変態姉妹 亭主交換』(1993年・エクセス)の現場でなんか、待ち時間になるといつも手鏡で自分の性器を覗き込んで、お手入れしてたからね。ここが本当の私の顔だから、いつだって見せられるように綺麗にしておかないとね、って。覚悟が違うよね。
『変態姉妹・亭主交換』(1993年)ポスター
工藤:当時、エクセスは、桜木ルイ(AV女優、1969~)とか、冴島奈緒(AV女優、1968~2012)とか、AVで人気のある女優を主役に使う方針でしたよね。
浜野:桜木ルイはAVクィーンって呼ばれるほどの人気だったからね。でも本番はやってなかったんじゃないかな。事務所のガードがものすごく固くてね、『桜木ルイ ぐしょぬれ下半身』(1991年・エクセス)の時も現場にべったりマネージャーが張り付いて、結構めんどうだった。だけど、ご本人は上昇志向のある子でね、一般映画の女優を目指して頑張ってた。AVでも一本撮ったけど(『桜木ルイ 小悪魔の白い乳房』1991年・現映社)本番はNGだったからね。
『桜木ルイ ぐしょぬれ下半身』(1991年)ポスター
工藤:冴島奈緒はどうでした?
浜野:冴島(奈緒)はエクセスでは撮れなかったけど、ミリオンで一本撮った(『冴島奈緒 監禁』(1988年・ミリオン)。相手役が日比野くん(日々野達郎、AV男優、1957~)でほぼ2人の話でね。後半に長い長いレイプシーンっていうか、徐々に二人の関係が変わっていく見せ場があってさ、私、そのシーンをワンカットで撮りたかったのよ。テストに時間かけて、冴島も日比野くんも本気で演じてくれたんだけど、OK出した後に撮影部の助手が間違ってマガジンの蓋を空けちゃったのよ。
『冴島奈緒 監禁』(1988年・ミリオン)ポスター
工藤:えーっ?!考えられないミスですね!!
浜野:全部パーよね。冴島なんか足とか腕とかに青あざ出来ちゃってるし、腹が立つやら、悔しいやら、カーっとなって、台本床に叩きつけて現場、飛び出しちゃった。表で気を静めてたら、冴島が来てね、「監督、私、大丈夫だから、撮り直しましょう。痣はメイクで消せますから」って。うれしくてね、涙出てきちゃった。戻ったら、現場のテンションが今までと違って、キャスト、スタッフ一丸になった感じで、前よりいいカットが撮れたんだけどね。冴島とはそれ一本切りだったけど、癌で亡くなったって聞いたときはショックだった。もっと一緒に仕事したい女優さんだったのにね。
工藤:感動的なエピソードですね。冴島さんが亡くなっていたのは知りませんでした。若いのに、残念でしたね。
浜野:44才で亡くなったっていうから、本当に惜しいよね。あと、女優じゃないけど、私にとって思い出深い作品は『小田かおる 貴婦人O嬢の悦楽』(1995年・エクセス)かな。性の喜びを知らない姉とニンフォマニアの妹、という双子の姉妹を小田かおるが二役で演じてね。姉が妹を理解していく過程で、自らの性と向き合い、欲望を取り戻していくっていう話でね。私、この作品を撮って、女性にピンク映画を観せる自信がついたっていうか、観せたいって思ったのよ。それから、山形や千葉の東金市で女性限定の上映会が企画されて、それが2011年から始まった「暴走女子と行く! ピンクツアー」に繋がっていったのよ。
『はしたない妻の蜜壺』(2004年改題 原題『小田かおる 貴婦人O嬢の悦楽』)ポスター
工藤:浜野さんも最初は、自分の作品を女性に見せるのにはハードルがあったんですね。
浜野:うん。やっぱり、セックス描写がハードだからね。「性の商品化」とか色々議論もあったしね。でも、山形の上映会でこの作品を観てくれた女性たちから「セックスは受け身だけじゃないことが分かった」とか「女にだってポルノを楽しむ権利がある」とか女の性について突っ込んだ議論が出来たのよ。私もそれまで女の人にこそ観てもらいたいテーマで撮ってたつもりだったんだけど、観客はおっさんばかり、っていうジレンマを抱えてたからね(笑)。私の映画は女の人にもきちんと伝わるんだ、って自信が持てたのはうれしかった。今でこそ男の監督たちも女性込みのツアーを組んで劇場に行ったりするけど、当時としては画期的なことだったと思うよ。困惑したのが劇場でさ、女の人が大挙して押しかけるものだから、最初は椅子の周りにロープを張って、女性専用席にしたりね(笑)。
工藤:男の俳優はどうですか?
浜野:浜野組出演で多いのは栗さん(栗原良、俳優、1956~)、なかみつちゃん(なかみつせいじ、俳優、1962~)かな。 男優はほとんど決まったメンバーで撮ってたね。栗さんはもともとAVで男優やったり監督やったりしてたんだけど、なかみつちゃんは、たまたまAVを観て、いい芝居する男優がいるな、と思って声をかけたの。
『㊙性感逆ソープ』(1992年)より 栗原良(右端)
『好色不倫妻 -吸いつくす!-』(1993年)より なかみつせいじ(杉本まこと名義)
工藤:なかみつさんがAVに出てたんですか?それは知らなかったなあ。
浜野:長崎みなみっていう女性監督の作品。彼女、もともとヘアメイクで私の現場についたりしてたから、観て欲しいって言われてね。それですぐなかみつちゃんの連絡先を聞いたわけ。それからはずっとレギュラー。
工藤:けっこうAV男優を使ってたんですね。
浜野:ジミー土田とか、加藤鷹とかね。加藤鷹はあんまりエラそうなんで1回こっきりだったけど(笑)。結局、あまり芝居のできないAV女優を主役にするわけだから、扱い方に慣れた男優の方がこっちは楽だよね。女優がきちんと綺麗に見えるように、自分で動いてくれるしね。
【2.カラミの作家性】
工藤:浜野さんは、女性監督として普通のピンク映画とは少し違う道を選んだんですね。
浜野:いや、女性監督としてじゃなく、プロのピンク映画監督としてよ(笑)。普通のピンク映画がどんなのか分からないけど、普通ではダメでしょ。面白くないもの。クセの無い画を撮っちゃダメなのよ。
工藤:クセですか?
浜野:私の映画は、(監督名の)クレジットを見なくても、浜野映画だって分かるわけよ。山崎の映画だって、あ、山﨑作品だって分かる。好き嫌いは別れるけどね(笑)。そういう個性がピンク映画を面白くするんだしね。
工藤:なるほど。
浜野:特にカラミは、作家性が出せる。「これ誰が撮ったの?」じゃなくて、最初のカラミで「浜野映画だ!」と分かる画を撮らなきゃあ。パンフェラとかザーメン返しとかね。
工藤:えっ!?“パンフェラ”って何ですか?
浜野:えーっ? 知らないの? ピンクの監督なのに?
工藤:すみません! お教えください!!
浜野:男優や助監督は“タンタンパンツ”って呼んでたけど(笑)、白くて薄いビキニパンツを男優が履いて、その上から女優がフェラすると唾液で透けるでしょ。モザイクの代わりよね。口紅でパンツは赤く染みてくるし、うっすらとモノの形も見えるしね。モザイクで消すよりエロいよね。
『㊙性感逆ソープ』(1992年)より パンフェラの例
工藤:パンツの上からのフェラで“パンフェラ”ですか?確かにピンク映画ではよく見ますね。あれは、浜野さんが編み出したんですか?
浜野:うん。多分ね(笑)。
工藤:浜野さんが“パンフェラ”の創始者かあ。すみません、勉強不足でした!!
浜野:女優にTバック履かせたのも私が最初だと思う。股間や肛門をギリギリまで見せられるからね。
工藤:肛門も見せちゃった?
浜野:当時、肛門はOKだったのよ。
工藤:本当ですか?
浜野:びっくりだよね(笑)。映倫によると「肛門は性器にあらず」なんだってさ(笑)。とにかくドアップで寄る。乳首が起っていくところを画面一杯のアップで撮ったりね。
工藤:乳首が勃起する過程をアップで見せるわけですか。うーん。
浜野:当時、陰毛もOKだったからさ。
工藤:今もカラミの中でなければOKですが。
浜野:カラミの中でも、アップなら陰毛もOKだったんだよ。
工藤:えっ!そうですか?
浜野:下を(フレームで)切って、肌を見せなければ、男の手が入って撫で回すくらいはOKだった。映倫は「これは作りものですね」なんて言ってたけどね(笑)。女性の体の一部をアップで観せるっていうのは、そういうピンク映画が無かったから、観客は度肝を抜かれるしね。しっとり、じっくり見せるベッドシーンではないかもしれないけど、普段スクリーンで観た事もないものが観れるんだから、喜ぶんじゃない?
工藤:なるほど。
浜野:ピンク映画の監督はね、カラミが勝負なのよ。映倫との駆け引き、女優との共闘、配給会社からの信頼、そのどれが欠けてもプロとは言えないよね。
工藤:大切な心得ですね。
浜野組撮影風景
浜野:最も、若い男の監督たちによると、私は”ピンク映画をダメにした3悪人”の内の一人らしいけどね(笑)。
工藤:“3悪人”ですか!?
工藤:多分、私と新田(栄)さん、小林(悟)さんの3人だと思う(笑)。要するに、「カラミばかり撮って、人間を描かない職人監督」っていう悪口(笑)。
工藤:人間を描かない?
浜野:何言ってんだか、だよね(笑)。職人結構、職人で何が悪い、よ(笑)。まあ、小松さん(小松俊一:当時のエクセスフィルム企画部長)が、エクセスで初めて撮る監督に「これがピンク映画だ!」と私の作品を観せたっていうから、恨まれてたのかもね(笑)。
工藤:小松さんとは、相性が良かったと言うか、気が合ったんですね。
浜野:小松さんの言ってる事、正論だからね。エクセスが撮りたいモノは何か、エクセスが観客に届けたいモノは何か、がはっきりしていたからね、私はやりやすかった。小松さんも例え何をやっても浜野映画を信頼してくれてたと思うしね。
工藤:なるほど。
浜野:いつだったか初号で終わった途端に立ち上がって「これがエクセス・ピンクだ!」って拍手してくれた作品があってね、シネロマン池袋に掛かって観にいったら、最初から最後までエロエロ(笑)。セリフ一言しゃべってはカラミ、また一言しゃべってはカラミで、「暴走女子と行く! ピンクツアー」(浜野監督が主催する女性がピンク映画を見るイベント)で行ったんだけど、みんなポカーンとしてた。「浜野監督にもこういう映画があるんですね」って(笑)。
工藤:ははは、でも他のピンクでは、多少心情も描いたんでしょ。
浜野:描かない(笑)。男の心情なんかくそくらえよ。男はイジメる(笑)。昔のスチール写真見たら、ハイヒールでおチンチンを踏んづける写真ばかりで、毎回これやってたのかあ、って自分でも呆れちゃった(笑)。
工藤:あらあら(笑)。
浜野:後、浜野組定番っていったら、ザーメン返しよね。
工藤:ザーメン返し!?何ですか、それは?
浜野:男が出したものは男に返す! 口内発射で出された精液を口移しで男に飲ませる。男の顔に跨って、膣からボトボトと男の顔にザーメンを垂らす。これが、必殺ザーメン返し!!(笑)
工藤:それって、男は喜ぶんですかねえ?
浜野:別に男を喜ばせるためにやってる訳じゃないから(笑)。まあ、男優さんたちはみんな嫌がったけどね。
工藤:そうじゃなくて、観ている男のお客さんが喜ぶのかと?
浜野:勝手に出してんじゃねえよ、という性教育(笑)。女優さんたちはみんな嬉々として演じてくれたけどね。私がピンク映画でこだわるのは女の主体性なのよ。デビュー作で「やろうよ」というセリフを書いたのと同じように、「いやよ、いやよ」で股を開く女なんていない。私が好きな映画では『痴漢電車 エッチがいっぱい』(主演 藤沢まりの、1988年・新東宝)で処女のエロ漫画家が、男になんかやらせないって自らバイブを突き立てて処女膜破ったりとかね、『やりたい人妻たち』(主演 ゆき、2003年・新東宝)は、酔って帰って来た亭主に「夫がやりたいときにやらせるのが女房だろ?」って無理やりセックスされて、「これはレイプだ! 私は自分が気持ちのいいセックスしかしない」って宣言してやりマンツアーに行くとかね。ほら、ちゃんと男の思い込みをぶっ壊す性教育になってるでしょ?(笑)
工藤:なるほど(笑)。
※エクセス映画のポスター、現場スチール以外の写真は、浜野佐知監督にご提供いただきました。
次回はいよいよ最終回。ラストの第5回 『男社会を変える戦いは続く』は、浜野監督の映画作りの現在、そしてこれからが語られます。乞うご期待!!
浜野佐知監督最新情報
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*女一人でピンク映画の世界で闘いぬいた波乱万丈の半生、映画製作にかけるエネルギーに打ちのめされます。浜野監督の人生そのものが映画のよう(映画.com 書評より)