浜野佐知監督インタビュー『男社会に喧嘩を売って半世紀!女性監督のピンク映画人生!!』第5回

昨年出版された『女になれない職業 いかにして300本超の映画を監督・制作したか。』が話題沸騰の浜野佐知監督。第1回、第2回が大好評を博していたエクセスインタビューの掲載を再開します。後輩監督に語られた、リラックスした浜野監督の言葉の数々には、著作とはまた違う浜野監督の素顔があります。今後、第5回まで掲載の予定。『女になれない職業』と合わせてお楽しみください。

第5回『男社会を変える戦いは続く』


【1.最近撮ったエクセス作品】

工藤:最近撮ったエクセス作品についてですが?

浜野:2001年公開の『川奈まり子・牝猫義母』からずっと撮ってないのよ。復帰第1作が『僕のオッパイが発情した理由』(2014年公開・愛田奈々)。13年もエクセスで撮らなかったなんて信じられないけどね。

工藤:えっ!そうなんですか?

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『川奈まり子  牝猫義母』ポスター

浜野:1998年から私も一般映画を撮るようになって、ピンクから離れてたってこともあるけど、その間はオーピーで年に監督2本、プロデュース2本(山﨑組)、新東宝で年2本くらい。

工藤:エクセスで撮らなかったのには何か理由があるのですか?

浜野:この頃から急激に制作本数が減ったからじゃない? エクセスだけじゃなくて新東宝も2006年からは撮ってないしね。私は基本ピンクの監督だから、エクセス撮れなかったのは寂しかったけど、業界としても、コンスタントに作り続けたのはオーピーだけってことじゃないかな。
 

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浜野組 撮影現場

工藤:ピンク映画は、フィルムからデジタルに撮影形態が変わっていきましたが、それについては?

浜野:2013年頃からピンクにもデジタル化の波が押し寄せて来たじゃない。まさか、フィルムが無くなるなんて思いもしなかった。それでもしばらくはあちこちから何とかかき集めてやりくりしてたんだけど、とうとうそれも尽きちゃって、もうデジタルで撮るしかないってなった時に、なんか悔しくてさ(笑)。デジタルで撮るなら、逆にデジタルでしか出来ないことはないかって考えたのね。それで、ネガじゃないんだからいくらでもコピーできるじゃん、だったら1本の素材でR-18版とR-15版の2本作れないだろうか、って思いついたわけ。

工藤:転んでも只では起きないところが、さすが浜野監督ですね(笑)。

浜野:ピンクは下請けだから、何百本撮ったって、私(旦々舎)に著作権ないからね。自分の監督作だからって、上映するためには配給会社に上映料を払って借りるしかないし、海外の映画祭にエントリーしたくても字幕もつけられないしね。一般作で海外の映画祭を回ってるときなんか、ピンク映画に興味を持って上映したいって言ってくれるところもあったりして、だったら、いっそ自分でピンク映画を作るかって思ってたのね。それで、エクセスの稲山社長に相談して、R-18版の『僕のオッパイが発情した理由』はエクセス出資で、著作&配給権はエクセス。R-15版の『BODY TROUBLE』(2014年公開)は旦々舎出資で、著作&配給権は旦々舎って住み分けを計ったのよ。

工藤:そうか、そうか。1本のピンク映画からR-15版とR-18版を作ったのはこれが最初という事ですね。
 

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『BODY TROUBLE〜男が女になるビョーキ?』ポスター

浜野:うん、今ではオーピーの主流のようになってるみたいだけど、当初は編集部やスタッフから、「監督、オーピーが真似してますよ」って(笑)。

工藤:浜野さんは先駆者という事ですね。

浜野:エクセスが私の提案に乗ってくれたからやれたんだけどね。そういう意味では感謝してる。

工藤:R-18版とR-15版の内容的な違いは?

浜野:テーマとしては、この社会が男にみせる顔と女にみせる顔は全く違う、というジェンダーギャップをやりたかったのよ。引きこもりの暗いオタクの男が、ある朝、トイレに行くとチンコがない(笑)。慌てて鏡を見るとオッパイもマンコもある美しい女に変身している。恐る恐る外に出てみると、痴漢に遭うわ、ストーカーに付きまとわれるわ、今まで自分が知っていたのとは全く違う世界が見えてくる。そういう社会で、嫌な目に合いながらも女として生きることを決意して、「僕はチンコに戻りたくないんだ!」で終わるの(笑)。
 

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『僕のオッパイが発情した理由』スチール 愛田奈々

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『僕のオッパイが発情した理由』スチール 愛田奈々

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『僕のオッパイが発情した理由』スチール 加藤ツバキ、なかみつせいじ

工藤:はい、僕も見せていただきました。

浜野:カッコよかったでしょ(笑)。で、それがR-18版ね。R-15版はさらにそこから話を膨らませて、男だった記憶を持ったまま女に輪廻転生してきた女性と、そのカウンセラーをストーリーにプラスしたり、クラゲをメインモチーフにしたりして90分にしたんだけど、脚本・編集・構成が山﨑だから、どちらかというと山﨑色が強いかな。ラストは、元男だった女二人がクラゲの海に消えていくのよ(笑)。

工藤:そういう話になってるんですか。

浜野:まあ、作品としては面白かったけど、もう二度とやらないかなあ。

工藤:それは、どうして?

浜野:一つの素材で2本作っちゃいけないっていう反省かな。やっぱり、R-15にしろR-18にしろ、一本ずつきちんと向き合わないとね。いくらでもコピー出来るからっていう安易な考えじゃ、やっぱり作品への向き合い方が違うよね。それなりに頑張って作ったつもりだけど、R-15版の方に消化しきれないものが残っちゃったみたいでさ。でも、初めて旦々舎が著作権を持つピンク映画を作れたことは良かったと思ってる。パリの「性愛映画祭」や北京の「中国国際女性映画祭」、アメリカのカリフォルニア大学の学会なんかに招待されて、上映できたからね。もっとも、海外にはピンク映画もR-なんとかなんて規制もないから、ジェンダーとセックスをテーマにした映画として評価してくれて、きちんと議論できたのはいい体験だったけどね。

工藤:カルチャーとして海外でピンク映画にスポットライトが当たるのは稀ですから、本当に意義深かったですね。次ですが、『女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどっち?』(2015年公開)これは、パラレルワールドの話でしたね?
 

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『女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどっち?』ポスター

浜野:うん。これはね、もともと前年の2014年にWOWOWの制作局から「ノンフィクションW」っていうドキュメンタリー番組で私を撮りたいっていうオファーが来たのよ。「女性監督が撮る性」をテーマにするっていうから、これはピンクの現場を仕込まなくちゃいけないな、と。それで、またまた稲山社長に相談したら、ちょうど真梨邑ケイが主演で宙に浮いている企画があるって言われたのよ。真梨邑ケイって言えば私でも知ってる有名なジャズシンガーだし、彼女が出てくれるならWOWOWのドキュメンタリーとしても申し分ないしね。それで、横浜のライブに会いに行ったのよ。そうしたら、圧倒的な歌唱力と存在感でさ、こんな人が脱いでカランでくれるのか半信半疑なところもあったんだけど、真梨邑さんが出演しているAVなんかを観ると、結構ハードなのよ。ご本人は、「歌うことも演じることも私にとっては一緒」って言ってたけどね。それで、何本か私の作品を観てもらって、出演してもらえることになったの。

工藤:浜野さんに会ってみて、ベテランなので向こうも信頼したという事でしょうね。

浜野:まあ、女同士、気が合ったってこともあったかも知れないけどね。それで、真梨邑ケイの魅力を最大限に活かす脚本を作るって約束してね、山﨑がイタリア映画の『ジュリア ジュリア』(1987年 ピーター・デル・モンテ監督)をモチーフにして、歌手と詐欺師をパラレルワールドで生きる主人公の脚本を書いたのよ。
 

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『女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどっち?』スチール 真梨邑ケイ

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『女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどっち?』スチール 加藤ツバキ、真梨邑ケイ

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『女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどっち?』スチール 真梨邑ケイ

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『女詐欺師と美人シンガー お熱いのはどっち?』スチール
左から 平川直大、なかみつせいじ、真梨邑ケイ、倖田李梨、竹本泰志

工藤:真梨邑さんは60代後半だと思いますが、浜野さんは、割と高齢の女性の性を描きたいという事があるのでしょうか?

浜野:うん、それはあるよ。私も十分ババアだからね(笑)。

工藤:いえいえ、そんな(冷や汗)。

浜野:ピンク映画歴半世紀だよ(笑)。まあ、私も30代くらいまでは女優さんと歳もそう変わらなかったから、お互い了解しあえたけど、私は毎年歳をとっていくのに、現場に来るのはほとんど若い女優さんばかりだからね。時代も変わって行くし、だんだん若い女性の性ばかりを描くのがしんどくなってきたのよ。だったら、私と同じ世代の女性の性を描きたいな、って思い始めたのね。だけど、それをピンクでやると熟女か変態になっちゃうでしょ? 『犬とおばさん』(1995年公開)とかね(笑)。
 

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『色欲おばさん むしゃぶる犬』(2012年改題 原題『犬とおばさん』)ポスター

工藤:『犬とおばさん』はエクセスでも大ヒットでしたね。

浜野:今でもエクセス観客動員数の金字塔らしいよ(笑)。でも、あの作品だって、妻をかえりみない、ろくでもない男より犬の方がマシ、っていうちゃんとしたメッセージはあるんだよ(笑)。

工藤:アハハ、犬以下ですか!?ろくでもない男には、なりたくありませんね(笑)。

浜野:ババアになったからって、枯れたわけじゃない。「ババアはセックスの対象にあらず」なんて誰が決めたのよ? そういう男社会の思い込みをぶっ壊さないと世の中変わらないからね。だからガンガンセックスするバアさんを撮って、本当は恋もしたいし、セックスもしたい。だけどもう、この歳じゃね、と諦めてる女性たちに、「ババアにだって、性欲はある! だから、死ぬまで元気に、セックスしながら生きて行こう!」っていうメッセージを送りたいのよ。

工藤:なるほど。

浜野:だからね、真梨邑さんの話に戻るけど、そういう私の主張に真梨邑さんはピッタリだったのよ。60代でも色っぽくて、華やかなオーラがあって、エグいカラミも堂々とこなす。脚本タイトルは「アザーサイド~もう一人の私~」っていうんだけど、現実でもジャズシンガーとAV女優という2面を持つ真梨邑さんにはぴったりの役だったんじゃないかな。

工藤:私もそう思います。

浜野:WOWOWのドキュメンタリーとしても成功だったと思う。やっぱり真梨邑さんクラスが出ると、女優さんの存在感が違うよね。

工藤:次が『黒い過去帳・私を責めないで』(2016年)ですね。
 

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『黒い過去帳 私を責めないで』ポスター

浜野:うん。この頃、AVの強制出演問題が噴出してきて、女の子たちの相談組織なんかも出来たんだよね。それはそれでいいことだと思うんだけど、AVは悪、AV女優はみんな騙されて出演させられている可哀そうな女性、っていうスタンスでさ、素人の女の子ならともかく、自らプライドを持ってAV女優を仕事として選んでる人たちだっている、ということを伝えたくて作った映画なの。過去のAV出演を暴かれそうになった売れっ子の作家が、それが原因で恋人と破綻したりするんだけど、「過去をなかったことには出来ない」ってAV出演を自ら公表するっていうストーリー。あ、そうそう、この(エクセスの)事務所でも撮影したんだよ(笑)。

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『黒い過去帳 私を責めないで』スチール 卯水咲流

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『黒い過去帳 私を責めないで』スチール 卯水咲流、佐々木麻由子

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『黒い過去帳 私を責めないで』スチール 津田篤、西内るな

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『黒い過去帳 私を責めないで』スチール 卯水咲流

【2.次回作について】

工藤:次回作はどんな作品を考えていらっしゃいますか?

浜野:最後のピンク映画を撮りたい(笑)。

工藤:それは、ご自分にとって最後の?

浜野:違うよ、ピンク映画界、最後のピンク映画。

工藤:まだまだ、ピンク映画は終わって欲しくないんですが(笑)。

浜野:私が100歳になる頃には、終わってるかもしれないじゃない(笑)。

工藤:そうか、たとえ100歳になっていても、最後のピンク映画は浜野監督が撮るという事ですね?その最後のピンク映画はどんな映画なんでしょう?

浜野:どんな映画だろうね(笑)。でも、今のピンクのように甘っちょろいエロでごまかすんじゃなく、映倫が卒倒するようなエロを女性目線で撮りたいかな。

工藤:完全に女性が解放された社会になっているのでしょうか?

浜野:多分、そうはなってないと思うからさ、人種や国籍、世代を超えた女性たちが、セックスを武器に男社会に闘いを挑むような映画にしたいね。全員、半裸や全裸でさ(笑)。

工藤:凄い映画になりそうですね。

浜野:ずっと稲山社長には言ってるんだけどね。「エクセス最後のピンク映画は、私に撮らせろ!」って(笑)。エクセスの一本目を撮ったんだから、最後だって撮らせてくれてもいいじゃない、ねえ?(笑)。
 

【3.男社会を変える】

工藤:しかし、浜野さんにとって男って何ですか?敵じゃないですよね?浜野さんを支える多くの男性スタッフがいるわけだし。

浜野:男は敵だ、なんて言ってないよ。男じゃなく、男が作った“男社会”が敵なの。

工藤:“男社会”ですか?

浜野:そう。ホモソーシャルな日本社会。私は“男ジャパン”って言ってるけどね。

工藤:男は好きと?

浜野:う~ん、どっちかって言うと、嫌いかな(笑)。特に、おっさんはね(笑)。だけど、男っていうだけでひとくくりにして嫌ってるわけじゃない、おっさん世代が身につけた男目線が嫌らしいのよ。世の中だって、セックスだって、男が変わらなければ、女にとって決して良くはならないからね。

工藤:ピンク映画を撮られて半世紀になるわけですが、男社会は少しは変わったでしょうか?

浜野:どうだろう? 社会自体はまだまだ男中心だよね。でも、女性たちの性に対する意識は確実に変わったと思う。自らの性欲を認めて、自由にセックスを楽しむ女性は増えたんじゃないかな。逆に、今の若い男性は性を楽しまなくなっている気がするね。

工藤:それは、そうかも知れませんね。

浜野:昔は、19、20歳と言えば、ヤリタイ盛りで、女と見れば突っ込みそうな奴ばかりだったじゃない(笑)。

工藤:それが、今は家でゲームをするようになり…。

浜野:性的なエネルギーの無い男が増えてきたのかな。それはそれで問題なんだけどね。

工藤:日本は少子高齢化ですものね。

浜野:やっぱり、性は生きる活力なのよ。男も女もね。家庭に縛られるものでもないし、愛に縛られるものでもない。性は自分のものだからね。よく男女共同参画センターなんかに講師で呼ばれて中高生たちに話すことがあるんだけど、「あなたたちはこれから大人になってセックスをするだろうけど、セックスこそが男女共同参画、男女平等の基本なんだよ」って教えるのよ。

工藤:セックスが男女平等の基本…。

浜野:当たり前でしょ。だから、男は・・・(笑)。セックスに上下関係なんかあっちゃいけない。欲望も、快感も、全部平等だから、相手ときちんと向き合って、お互いを思いやってやりなさい、ってことを伝える。今の時代は若い人たちにきちんとした性教育をしないとダメだよね。もちろん、おっさんにも、男社会全体にも性教育が必要だけどさ。

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浜野監督近影

工藤:分かりました。では、男社会を変える戦いが続きますね、これからも。

浜野:そうだね(笑)。私には映画っていう戦いの武器があるからね。男の妄想に、あんた、馬鹿じゃないの?ってこれからもガンガン喧嘩売っていくよ(笑)。

工藤:なるほど、そうですよね。本当に、今回は面白いお話しが聞けました。本日は、どうもありがとうございました。
 

※エクセス映画のポスター、現場スチール以外の写真は、浜野佐知監督にご提供いただきました。

浜野佐知監督最新情報

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