ピンクの炎 第3回『君は「しのざきさとみ」を知っているか?』女優 しのざきさとみさんに聞く その5「思い出の共演者。そして、ラストメッセージ」

工藤:90年代後半から、2000年代にかけてピンク映画の他にVシネなどビデオ作品にも出始めますね。97年の渡辺元嗣監督の『好色くノ一忍法帖〜』(新東宝=国映)、これはVシネですか?

しのざき:そうですね、映画じゃなくてビデオ用だったのかしら。これは、面白いです。渡辺監督はコスプレとかロリータが好きで、コスプレ物のビデオの先駆者じゃないでしょうか。たしか、久保新二さんも出演していました。コメディーです。

工藤:久保新二さんとは、初共演ですか?

しのざき:いえ、初めてではなかったです。久保さんは、深町組にも良く出ていて、10本くらい共演しているんじゃないでしょうか。あの方もコミカルなのが多いじゃないですか。私も喜劇が好きなんです。自分が暗いからかもしれませんが…

工藤:共演者として、久保さんはいかがでしたか?

しのざき:久保さんは、いつもテストと本番と違う芝居をするので大変でした。私は焦っちゃうんです。相手がこう言ったら、こう言うと台詞を覚えてるので、本番で違う事を言われると素に戻っちゃうんです。違う人の筈なのに自分に戻っちゃうの。だから、久保さんは怖かったですね。

工藤:当時の久保さんとか、野上正義さんとか芸達者な俳優さんたちは、アドリブで火花を散らしてたんですよね。お互いに相手を喰ってやろうと、競いあってた。だから共演する女優さんたちは大変だったでしょうね。

しのざき:私なんか喰われまくりで(笑)、「どうか返したらいいの!?」と困っちゃって…。久保さんとか、野上さんとか、何本もやってますけど、お人柄は好きですけど、大変でした。

工藤:コメディーとしては、面白くなると思うんですが?

しのざき:両面あると思うんです。監督も大変です。面白くなる事もあるけど、そうでもなくても、尺だけどんどん伸びちゃうでしょ。私は、台詞はなるべく一字一句変えない方ですから、無理でした。アクションなら良いんですよ。でも、台詞を変えるのはやめて欲しかったですね。尺の話で言えば、ピンクはフィルムが貴重だから、数秒を惜しんで撮影しますよね。

工藤:フィルムをロールチェンジする直前に、後数秒分残ってるから、それでワンカット撮ろうとかありましたよね。

しのざき:そうそう、あと3秒で一言、言って下さいとかね。その中で、言い切らないと、「あーあ、フィルムが落ちちゃった!」とか言われるじゃないですか。そんな中でやってるのに、アドリブでむやみに尺が伸びたり…。監督泣かせですよね。

工藤:それはそうですね。

しのざき:だから、よほど面白いこと以外は、アドリブは控えて欲しいというか…。

工藤:しのざきさんが、喜劇が好きなのは何故ですか?

しのざき:やっぱり、初号とか見た時に、「あーあ、楽しかった」って思うでしょ。暗い気持になるよりはいいですよね。そこで、自分の演技に笑えたり、そこが喜劇の良いところだと思っています。

工藤:今、久保さんの話しが出ましたが、共演した俳優で他に印象深い人は?

しのざき:なかみつさん。

工藤:なかみつせいじさんですね。最初に共演したのはいつ頃ですか?

しのざき:多分20年くらい前かしら。やっぱり深町組だったと思います。 私の芝居はなってなかったらしく、色々アドバイスくれ過ぎで…。

工藤:文句をつける?

しのざき:「それはさあ、こういう感じじゃない?」とか言って。「なかみつさん、監督なの?」と思うくらいでした。

工藤:そうなんですか。

しのざき:憎らしいの。上から目線だったんですよ。今みたいに柔らかくなかったんです。「その芝居は違うよ」とか言うから、「あなたに言われたくないわ」と思いましたね。その頃ピンクをやってた年数では私の方が長かったと思います。芝居の経歴としては、彼の方が劇団とかやってて長かったかもしれないけど、ピンクでは、先輩でしょ?それなのに、真面目に文句つけるの。

工藤:それは現場で?

しのざき:現場でテストの時、芝居のきっかけにしても、私なりのタイミングがあるのに、「僕がグラスを持って、こうしたら台詞を言って」とか私に芝居をつけるんです。監督や助監督に言われるなら分かりますけど、ちょっと頭に来たこともありましたね。

工藤:本当は、それはやっちゃいけない事ですね。

しのざき:今では笑い話で、逆に文句言ってますけどね(笑)。彼もすごく一生懸命で、すごく尖ってたんです、まだ若かったし…。とにかく、正論を言いたいんです。でも、私としては、確かに芝居は下手だけど、私だって自分なりに考えて、やりたい事だってあるんだから、あなたの作品じゃないでしょ、だから、「私のやりたいようにやらせて」って思ったんです。でも、当時、私は大人しかったんで、「はい、分かりましたって」言いましたけど、心の中では切れてましたね(笑)。その後は、気心が知れて、だんだん仲良くなりましたけど。

工藤:なかみつさんとは、何本くらいやりました。

しのざき:さあ、どのくらいかしら。20本以上は、やってますよ。 今でも、仲は良いし大好きです。まっすぐで優しい人です。

工藤:なかみつさんは、ピンク映画を支えるような俳優ですものね。

しのざき:今は、柔らかくなって、誰にでも好かれるようなキャラクターになりましたけど、若い頃は演劇青年という感じで、本当に尖ってました(笑)。

工藤:しのざきさんが、長く女優を続ける事ができた秘訣は?

しのざき:さあ、秘訣なんて何も無いです。どうしてでしょう?

工藤:あえて主役をやらないようにしてたのも一つかも知れませんが、それだけでは無いと思います。

しのざき:着物が着れたことかしら?それ以外は思いつかないです。 組の中に居場所があって自分らしくいられたことかしら…。

工藤:エクセスの出演作の話しに戻りますが、松岡邦彦監督の作品にも多く出演してますが、最初が2003年の『派遣女子社員 愛人不倫』ですね。これに出演した経緯は?

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しのざき:これも誰かの紹介でしょうね。誰だろう、全く覚えていません。

工藤:松岡君側から声をかけたんですかね?

しのざき:それはそうですね。私から出演したいと売り込んだ事は、かつて一度もありませんから。松岡監督とはそれまで、接点が無いですもの。松岡監督が助監督をしていた作品に私が出た事もないし。今度、松岡監督に会ったら聞いておいて下さい。

工藤:はい、分かりました。(注:その後、この時、松岡監督にしのざきさんを推薦したのはエクセスの稲山社長と判明。)次に松岡組に出たのは2005年の『肉屋と義母 うばう』。三東ルシアさんが主演ですね。

しのざき:本物の肉屋でロケしたので、良く覚えています。

工藤:この時、僕は同時期に併映で夕樹舞子主演の『私に股がして!寝取られた人妻 夕樹舞子』っていうのを撮っていて、確か普段は300万円くらいの予算が500万円くらいありましたよ。

しのざき:松岡組は、あまり予算潤沢だった記憶は無いですけど(笑)。ただ、三東ルシアさんは奇麗でした。

工藤:ちょうどこの頃は、松岡組と新田組に交互に出てますね。松岡組と新田組は全然違いますよね。松岡監督はストーリー重視でしょうし、新田監督は職人的な早撮りですよね。

しのざき:新田監督は早撮りだけど、ちゃんと押さえる所は押さえてましたよ。仕事するには、職人の方が楽だし良いじゃないですか。でも、作品作りとしては松岡組は面白かったですね。

工藤:松岡組に出演した最後が、2008年『クリーニング恥娘 いやらしい染み』になるのかな?

しのざき:これも、本物のクリーニング屋でロケしたので良く覚えてます。

工藤:この頃になると、だんだん出演作が減ってくるんですかね?

しのざき:そうですね、そろそろもう脱ぐのはいいかなと思い始めた時期ですね。最近出た清水組とかはもう脱いでないですよ。

工藤:今の所、脱いだ最後はどの作品になりますか?

しのざき:たぶん久保さんと絡んだ池島組の2011年『その男、エロにつき アデユー!久保新二伝』ですね。

工藤:その作品は見せていただきましたが、しのざきさんと久保さんが幼なじみで、60歳を過ぎて再会するという設定の、悲恋というか、凄く感動的なカラミのシーンがありましたね。その後、もうこれ以上脱げないと思うような瞬間ってあったんですか?

しのざき:初号とかで、若いピチピチした女優さんの裸を見ると、お客さんは、私の裸なんかもう見たくないんじゃないかと思って。

工藤:ファンは、まだまだ見たいんじゃないですか?

しのざき:おばあちゃんの役柄で脱ぐようなのは嫌ですね。おばあちゃんの悲しいセックスみたいな扱われ方はイヤなの。別に自分を奇麗に見せたいとかではなくて、お客さんに「こんなババアの裸見たくないよ、こんなシーン無くても良いよ」と思われたくないでしょ。何か、その中に切なさとか、ロマンチックな要素があれば良いけど。

工藤:ストーリー上の必然性があればという事ですね。

しのざき:例えば、義母が入浴していて、それを見た息子が急に欲情していきなりセックスとかはダメですね(笑)。そんなので、いまさら脱いでもお客さんは喜ばないでしょ。

工藤:監督も、ストーリー作りを頑張らなくちゃいけませんね。そろそろ、まとめの質問になりますが、しのざきさんにとって「女優」とは?

しのざき:難しいですねぇ。今でも自分を女優とは思ってないですから。こうしてインタビューを受けて、女優と呼ばれるとそうなのかなって思うだけで。でも、インタビュー的に言うと、「違う自分になれる職業」ですかね。自分は元々、言いたい事も言えないとか、ピンクを始めてからも芝居が下手だとか、自分を否定的に考えて生きてきましたから。本当は、違う自分になれるとは思わないし、そこまで錯覚してないけど、違う自分を演じる事で、自分自身が変わってこれたと思うんです。

工藤:違う自分を演じる中で、自分を表現できるようになった訳ですね。

しのざき:表現できてるのかなあ。今も、芝居が下手なのは変わりませんよ。最近若い監督に現場で「さすがですね」なんて言われるとバカにされてるのかと思いますもの(笑)。

工藤:「さすがベテラン女優!」みたいな感じですか?

しのざき:そうですね。でも、女優を続けて来て、嫌いだった自分を好きになったというか、肯定的に考えられるようになったし、自分の考えを言葉としてドンドン言えるようになりましたから、女優をやって本当に良かったと思います。

工藤:最後に、後に続く後輩のピンク女優にメッセージやアドバイスはありますか?

しのざき:私なんかがアドバイスなんておこがましい事は言えませんが…、そうですね、人間関係を大切にする事でしょうか。私はピンクの現場の人間関係の中に自分の居場所を見つける事で自分を好きにもなれました。ずうっと長くやってた事もあるから、ピンク映画が、もう人生の一部になっています。だから、みんな同志というか、自分の中にそういう人間関係が蓄積されているのは嬉しいですね。だって、みんな可愛がってくれましたから。下元監督だって、カメラマンの時から知ってて「いつも、下手だなあ」ってため息ついてました。監督になってからも、私が芝居が下手なのを知ってるから、私は台詞が少ないんです。それでも、現場に呼んで貰えたから、安心感があるんです。「下手な私でも良いの?」という。下手でも良いんだと思う事は、自分を肯定出来る事ですから。だから、ありがたかったです。少しづつ、成長するのを見守ってくれていた訳ですからね。ある日、「今日の芝居は良かった」と言われた時の嬉しさったら他にはありませんよ。だから、皆さん、辛い事も色々あるかもしれませんが、頑張って女優を続けて欲しいと思います。

工藤:今日は、良いお話しが聞けました。長い時間ありがとうございました。

                 終 


Youtubeで予告編を観られます!

※2019年8月公開の松岡邦彦監督作品「憂なき男たちよ 快楽に浸かるがいい。」(ポスターをクリックすると予告編をご覧になれます)に、しのざきさとみさんも出演されています。今回の作品についてコメントをいただきました。(編集部)

1)松岡組出演の感想
またも私の粗忽さで…。オファーがあった時、「ローラースルーゴーゴーに乗って転ぶだけ…」と監督がおっしゃったので、エキストラのようなものかと思い、安請合いしてしまいました。数日後 本を読んだら 台詞が多くて困りました…。

2)現場でのエピソード
エピソードと言えるかどうかわかりませんが 「どこと特定出来ないような地方色を出して」と言われて…。場末のスナックで、流れ流れた女性のようにとのリクエストが ちょっと困りました。台詞も関西弁と博多弁のような訛りで…。うまく言えてるのか不安です。また、もう既に同録になって何年も経つのに、フィルムの回る音がしない中での演技に慣れず緊張しました。

3)共演した並木塔子さんについて
美しくてサバサバしていて心根の優しい方だと思います。

4)映画で見て欲しい所
人間模様でしょうか。心の触れ合いや痛みを感じられる作品です。そして勿論 エロスですね。

しのざきさん、ありがとうございました。