ピンクの炎 第3回『君は「しのざきさとみ」を知っているか?』女優 しのざきさとみさんに聞く その3「私、芝居が好き?女優への目覚めと、エクセス初出演」

工藤:しのざきさんのキャリアで驚いたんですが、水中ヌードをやっているんですね?それは、この頃ですか?

しのざき:それは、1984年か85年の雑誌のグラビアをやっている頃ですね。

工藤:水中ヌードをやる事になった経緯は?

しのざき:2度めの平凡パンチのグラビア撮影の担当カメラマンが、藤田和宣さんと言う方だったんですが、その人と海に撮影に行った時、私の泳ぐ姿を見て、「水中ヌードやってくれない?」と頼まれました。藤田さんは水中撮影もライフワークにされていたようです。

工藤:水中ヌードとはどういうものなんですか?

しのざき:水中ヌードというジャンルが当時あったかどうかはわかりませんが、藤田さんが言うには「奇麗な海と裸体のコラボレーションが、人魚のように美しい」とのこと…(笑)。

工藤:何か苦労話やエピソードがありますか?

しのざき:藤田さんの個人的な作品なので、スポンサーはいません。グラビア撮影の合間に潜っていました。というより、水中が8割で、休憩中にグラビア写真を撮っていたような感じで…。早朝から日没までずっと潜ってました。痩せましたね。海に持って行く食料も少なくて、ほぼノーギャラでした。沖縄やグアムの海で何度もロケをして、ある程度枚数がまとまった時に、銀座のニコンサロンで個展がありました。盛況で嬉しかったですが、辛かった撮影を思い出してちょっと泣けました。今回、写真が見つかったことで、懐かしい気分にはなりました。作品としては美しい?かな…と。



工藤:新人の頃で印象深い、組と監督、共演者はどなたですか?

しのざき:やっぱり深町組ですね。デビュー当時だけじゃなく、映画をやってきた全部の中でも深町組かも知れません。深町章監督には、怒られたり、色々な事を教わったりしました。

工藤:どんな事を教わりましたか?

しのざき:私は、とにかく芝居が出来なかったんですよ。初歩的で恥ずかしいんですけど、「役の気持ちになれ」というようなことを教えられました。「変なプライドを捨てろ」というか、役を与えられて現場に立っている時は、もう自分じゃなくて、その役柄の人物なんだということですね。同じ「どうして」という言葉でも、言い方が何通りもあって、見ている人が、その状況を考えることが出来る…ことなど、数え切れないほど、教えていただきました。

工藤:なるほど。

しのざき:それまで私は、自分の立場で役を考えていたんです。シナリオを読んでも、その役の人になんて、なりきれる訳がないと思っていました。だから、恥ずかしくて言えない言葉とかがあったりしたんです…。でも、「(その役は、あなた自身と)違う人なんだよ」と言われて。「そうか、私じゃないんだ」と思ったら、それこそ憑き物が落ちたように出来るようになったんです。「あっ、そうなの!」と思って。「私じゃないんだと思えば、何も恥ずかしくない」と思えるようになりました。

工藤:そこで、女優として一皮剥けたわけですね。

しのざき:一皮剥けたというより、役者として何も無かった私が、少しだけ役者として「目覚めた」という感じかしら。何にも無くて、何でも「嫌だ、出来ない」と思っていた私が、私じゃないんだと思ったら、芝居が全然平気になりました。

工藤:平気になったと同時に面白くなったんでは?

しのざき:面白くなったのは、もっと後です。10年後くらいに、いつも怒られていた深町監督に、初めて「(芝居が)凄く良かった。泣けたよ」って言われて、私も泣きました、嬉しくて。その時、「私、芝居が好きかも」って思いました。

工藤:それは、感動的ですね。

しのざき:でも、その時、カメラの調子が悪くて、そのカットが回ってなくて、撮り直しになっちゃったんですけど(笑)。

工藤:それは、残念!そんな落ちがあったんですね(笑)。でも、監督に褒められたというのは、しのざきさんにとって、それほど大きな出来事だったんですね。

しのざき:いつも怒られていましたからね。何回やっても「違う、違う、違う」って言われてました。でも私としては、いつも精一杯やっているんですよ、これでも。何十回もテストをやって、朦朧としてきても、それでもダメだったんです。そんなでしたから、初めて褒められた時は感激しました。それが、始めてから10年後くらいです。

工藤:10年後というのは、それまでに少なくとも20本から30本、映画を続けているわけですよね。断れない性格というのがあったにしても、それまで続けられたのは何故ですか?

しのざき:チームワークみたいなのが好きなんですよ。組が同じなら、大体同じカメラマンで、同じ照明さんという事が多いじゃないですか。そうすると、自分の居場所がここにあるという感覚になってくるんです。自分の事を知ってくれている人たち、それこそ芝居が下手なのも知ってくれているわけですから、自分を飾る必要も無いわけです。で、何て言うか、受け入れられているって言う気がするというか、そういう感覚が、一番好きだった事ですかね。そこにいると心が安らぐみたいな感じでしょうか。

工藤:撮影現場が、心が安らぐ場所というのは大切ですね。

しのざき:私は声が低いのがコンプレックスで、アフレコが苦手だったんです。録音スタジオ・シネキャビンの技師の中村さんは、いつも「大丈夫、大丈夫。あなたのその声が、凄く良いんだ」と言ってくれましたから。他のスタジオでは、録音技師さんに随分ダメ出しされて、自信を失っていた時もあったんですけど、シネキャビンなら「この声でも、大丈夫なんだ!」と安心できて、アフレコが苦手ではなくなりました。

工藤:良いスタッフとの巡り会いもあったんですね。  

しのざき:それと、何かを皆で作っていく、というのが好きなのかもしれないですね。ピンクの仲間は、友だち以上、恋人未満ですよ、みんな(笑)

工藤:友だち以上、恋人未満?

しのざき:友だち以上に濃い関係のような気がするんです。何しろ、さらけ出しちゃってますし。友だちには、嫌われたくないし、自分の良い所を見せるじゃないですか。でも、現場では、自分の才能の無さも、それこそ裸も見せちゃってますからね。自分を飾らなくて良いというのは、心が安らぎますよね。ひょっとしたら、ピンクの仲間は恋人より大切な存在だったかもしれません。その、(撮影現場の)空間というか。

工藤:安心感があったんですね。

しのざき:それが長く続けて来た、一番の理由だと思いますね。現場に行くのが、楽しかったんです。



工藤:エクセスに初めて出たのが、1993年で、デビューから9年目、10年近くたっています。最初に公開されたのは、池島ゆたか監督の『ハードレズ 本番舌技』ですが、これは覚えていますか?

しのざき:はい、よく覚えています。

工藤:大蔵とか、新東宝とかに出ていた訳ですが、エクセスに出ると言うのは意識しました?

しのざき:大手だから、嬉しいと言うのはなかったです。日活の流れをひいているのは知っていましたし、憧れは感じましたが、出演の基準ではなかったです。家にも内緒にしてましたし、あまり目立ちたくなかったと言う気持もあります。

工藤:ちょっと話しがそれちゃうかも知れませんけど、今の若い子は、裸になる仕事をしていても有名になりたいって言う子が、けっこう多いじゃないですか。それは、どう思います?

しのざき:有名になると、色々大変だと思います。でも、そのために頑張る事は、良いのではないでしょうか。私は、主役は断っていた方が多いです。

工藤:主役を断っていたんですか!

しのざき:主役はポスターになって目立ちますし、自信も無かったので脇役で充分でした。深町組でも、何十本もやってますけど、主役は10本くらいしかやってないです。『温泉女将』だけは続けましたが。

工藤:『温泉女将』は、しのざきさんが主役でヒットしたシリーズものですね。その、主役をやったのは何故ですか?

しのざき:着物を自分で着れるから依頼されたのかしら(笑)。はまり役と言われて…。

工藤:ピンクは衣装が自前ですものね(笑)。

しのざき:エクセスは有名な方が主役の事が多かったので、それほどオファーはありませんでしたが、他社でも、せっかくの主役を断っていました。

工藤:あえて脇役をやっていたんですね。

しのざき:特に、デビューから10年くらいはそうでした。

工藤:やはり、ポスターに載りたくないと。

しのざき:それと、主役だと何日もかかるでしょ。脇だと1日で済みますものね。

工藤:今だと、3日撮りくらいですけど、80年代は?

しのざき:4、5日やってたんじゃないかしら。私は、スケジュール的に何日も空けられなかったですけど。

工藤:家に内緒だと、何日もかかるのはマズいですよね。

しのざき:それと、昔は本当に現場が重労働で、早朝から、夜中まで、まる三日くらい撮影していました。

工藤:今でも、現場によっては同じですよ。

しのざき:そうですか。でも、まる3日なんて無理ですよ。人間、そんなに集中力は続かないでしょ。あまり寝ずに、食事の用意や、ヘアメイクも自分たちでして、クタクタでした。当時、三日三晩徹夜して撮っていた分量は、どう考えても、本来一週間はかかる分量ですよね。

工藤:本当にそうですね。

しのざき:だから、エクセスの社長さんに言っといて下さい。映画には、ちゃんと予算を出してくださいって!

工藤:はい、言っときます(笑)。

しのざき:徹夜で家に帰れなくても、寝る所とかきちんとあれば、まだ良いですけど、セットで寝させられたりしましたしね。男の人も一緒に雑魚寝ですよ。あり得ません!プライベートも何もありませんでした。昔は、携帯もありませんから、どこか遠くに行ったら帰れませんし、コンビニも無かったですからね。

工藤:昔は、そういう所は大変でしたね。

しのざき:お金かけても、儲からないんだから、その予算でやってくれって言うのかもしれませんけど、一日当たりのギャラを下げても日数を伸ばすとかしてもらわないと、本当に無理ですよ。現場の状況は、何とか良くして欲しいですね。



その4「女優の男遍歴。彼氏にバレた秘密」に続く。