◆スタッフ◆

製作……………フィルムハウス

提供…………Xces Film

脚本・監督……………山内大輔

撮影……………創優和

編集……………有馬潜

録音………………シネキャビン

助監督……………小山悟

スチール……………本田あきら

現像……………東映ラボテック

◆キャスト◆

桃子……………山吹瞳

美穂……………星野ゆず

里子……………佐々木基子

小田切……………竹本泰志

佐藤……………久保田泰也

柿崎……………津田篤

源太郎……………森羅万象

◆ストーリー◆ 

 桃子(30 歳/当時)は不倫相手の小田切(42 歳/当時)と共に、彼の妻・里子(34 歳/当時)に詰問されていた。里子は興信所を使って桃子のことを徹底的に調べ上げたといった。当然、桃子が小田切の子を腹に宿しているのも知っていた。小田切が「別れてくれ」と頭を下げると「やっぱり子供を産めない女はダメってことよね」と里子は意外にも冷静だった。「わかりました。小田切のことはあなたにお任せします」里子は桃子に言い、「あら、ごめんなさい。お茶も出さずに」と台所に立っていった。取り残された桃子と小田切は無言で顔を見合わせた。もっと話がこじれるかと思っていたが、案外呆気なく決着が着きそうな事に拍子抜けもしていた。小田切がそっと桃子の膝に置かれた手を握った。

 しばらくしても里子は戻って来なかった。「何してるんだアイツノノ」不審に思った小田切が様子を見に部屋を出て行き、ひとりになった桃子はホッと溜め息を吐いた。「桃子、救急車っ!」突然、部屋の奥から小田切の震えた叫び声がした。桃子は立ち上がり、声のする方へ走った。風呂場の入り口で、小田切が真っ青な顔をしてへたり込んでいた。桃子は口から泡を噴く里子の姿が目に入った………。

 『スナック・桃子』の店内で、桃子(33 歳)は目を覚ました。いつのまにかカウンターで寝てしまったらしい。3年前の出来事なのに、桃子は未だにあの場面を鮮明に夢に見た。カウンターには客が残していったグラスや灰皿がある。桃子はスツールからゆるゆると立ち上がると気怠い様子で店の後片付けを始めた。客のグラスの脇にデュポンのライターが忘れてあった。桃子はそれをグラスの並んだ棚の上に置いた。

 東京都下の小都市。桃子は繁華街の外れにある『スナック・桃子』のママだ。この時勢で店の経営は芳しくない。店じまいを終えた桃子は、停めていた自転車に跨がった。自宅アパートは店から10 分程のところにある。それでも部屋に戻ったのは午前2時を過ぎていた。桃子は壁掛けカレンダーの日にちにひとつ印をつけた。10 日後の金曜日の欄には《スナック桃子、閉店》と書き込まれている。奥の六畳間で雅人(30)が鼾を掻いていた。枕元には彼の商売道具である一眼レフカメラが置かれている。雅人はフリーカメラマンなのだ。三月ほど前から雅人は桃子のアパートに出入りするようになっていた。

 風呂を上がって寝支度を済ませると、桃子は雅人の隣に並べてある布団に入った。「遅かったな」雅人が言った。「ごめん、起こした?」いきなり桃子の唇を雅人の口が塞いだ。雅人が激しく求めて来る。「また赤くなってる」事後。雅人は桃子の腕を見て言った。さっきまで雅人の体に巻き付けていた両腕の内側が赤く腫れている。「良かった証拠よ」桃子は妖しく笑ってみせた。「ホントかよ」雅人は桃子から体を離すとごろんと布団に仰向けになり、すぐに鼾を掻き始めた。

 桃子には変ったアレルギーがあった。男と交わると、相手のカラダにまわしていた腕の内側、男の肌と密着していた箇所が必ずと言っていいほど赤く腫れてしまうのだ。カラダを離してしばらくすると、その腫れは引いてゆく。だがかつて一人だけ、その症状が出なかった相手がいた。それが小田切だった。

 当時小田切は店の客で、大手メーカーの課長職に就いていた。足繁く店には通って来たが、口説かれたという感じではなかった。どちらかというと桃子から誘ったのに近いかもしれない。初めて彼に抱かれた夜、桃子の腕にいつもの腫れは起こらなかった……。