ピンクの炎 第3回『君は「しのざきさとみ」を知っているか?』女優 しのざきさとみさんに聞く その2「初めての前貼り、涙に濡れた縄。新人女優の頃」
工藤:ピンク映画だと、前貼りするじゃないですか?前貼りはどうでした?
しのざき:もちろんしました。
工藤:最初はメークさんにしてもらったんですか?
しのざき:いいえ、最初から自分で。いきなり、白いテープみたいのを渡されて。やり方が分からないので、助監督さんに「これどうするんですか?」と聞いて。「こういうふうに、切って貼るんですよ」と教えられて。「ええっ!無理!!」と思ったけど、中にガーゼを入れるのを教えられて「なるほど」と思って。その時、自分で前貼りを作ったのは良く覚えてます。それから、苦節何十年も作り続けてるんですものね。(今は)上手いものですよ、前貼りなんて(笑)。
工藤:そうですか。でも、始めての時って、若い女性にはハードルが高いだろうと思って。そういうのを乗り越えてきたんですよね?
しのざき:そうですね。自分でも分からないんですよ。でも、嫌だって事が言えない性格なのよね。今は、言いますけど(笑)。
工藤:しかし、次の仕事が来るという事は、最初の出演作の演技の評価が良かったんじゃないんですか?
しのざき:当時は、女優さんが今のようにいなかったし、人がいなかったからじゃないですか(笑)。だって、その時は、芝居も出来ないし、カット割りという事も分からないし、カット変わりでの立ち位置も分からなし、スタッフは呆れてたと思いますよ。それでも使わざるを得なかったんじゃないかな、人がいないから。
工藤:グラビア時代のしのざきさんの写真を見ると、アイドル顔と言うか、凄く可愛いですよね。今も、もちろんチャーミングですが(笑)それで、張りのある巨乳ですから、魅力的だったんだと思いますよ。
しのざき:そうなんです、可愛かったんです(笑)。
工藤:翌年の、1985年にも5本ほど撮っていますが、この中に渡辺元嗣監督が撮って池島さんも出演している『痴漢電車 いけないこの指』(新東宝)がありますね。
しのざき:面白いですよ、これは。
工藤:どんな話ですか?
しのざき:どんな話って、そんな事聞かないで。いわゆる、『痴漢電車』ですよ(笑)。
工藤:どんなエピソードがありますか?
しのざき:渡辺組ではないんですが、痴漢電車モノでは、苦い思い出があります。
工藤:えっ、それは?
しのざき:電車の中で捕まりそうになったんですよ。通報されて。
工藤:僕も、『痴漢電車』は一本撮った事があるんですけど、実際の電車でゲリラ撮影するんで、けっこうスリリングですよね。
しのざき:もう、嫌だった。胃が痛くなった。通報されて、電車に私一人取り残されて、カメラマンとかスタッフが、みんな逃げちゃったんですよ。
工藤:えっ、そうなんですか!
しのざき:カバンとか床に置いてたし、パンティをずり下げられているから、すぐに走れないじゃないですか。そしたら、みんな電車を降りて行っちゃって。
その時は「もうこんな仕事、絶対辞めてやる!」と思いましたよ。「(私を)守ってよ!」って。まあ、現行犯でカメラとか持ってたら大変なんで、仕方ないんですけど。
工藤:でも、昔は一般の乗客がいても、随分大胆に撮ってましたよね。
しのざき:撮ってましたよ。電車のセットが出来たのは、何年も後ですもの。最初は、スタッフとキャストが別々の車両に乗り込んで、頃合いを見計らって、何両目の車両とか決めておいて、みんな集まって、いきなり触って痴漢シーンを撮るとか、そんなやり方。2、3人は現場を隠すように誰か立つけど、バレますよ。カメラは何かに包んでいるけど、昔は、カメラがジーッと音がするじゃないですか。
工藤:昔と言うか、つい最近まで。デジタルに変わる前のフィルムの時は、大きな音がしてました。
しのざき:そうでしょ!バレるに決まってるじゃないですか。その上、監督は、「スタート」とか「カット」とか大きな声を出しちゃんうんです。もう、バレバレだから勘弁してって思ってました。
工藤:監督って、習慣だから盗み撮りと分かっていても、思わず大きな声をだしちゃうんですよね。
しのざき:「もう生きた心地がしない」と思って。電車の中で、お尻を出したり、胸をはだけたりしてるじゃないですか。そんなので捕まったら、「もう恥ずかしくて、表を歩けなくなっちゃう」と思ってました。
工藤:そうですよね。増して、この頃は家には内緒なんですものね。
しのざき:結局、私も電車を降りられて、無事だったんですけど、最後になっちゃって。今考えると怖いです…。
工藤:今はね、携帯電話があるからすぐ通報されちゃう。昔は携帯が無かったから、通報されるまで時間がかかった。だから、それまでにパッと撮って、逃げちゃえたんだけど,今は出来ませんね。
しのざき:でも、「生きた心地がしない」と言いながら、何本もやってるんだから不思議です(笑)。
工藤:『痴漢電車』って、根強い人気があって、お客さんが入ったんでしょうね。
しのざき:そうですね。今は、痴漢はすぐ訴えられちゃうから、両手を上げてつり革を持って乗ってるなんて、良く聞きますけど、男性には願望があるんでしょうか。満員で女性と体が密着してたら、ムラムラきますよね。でも「いけない、いけない」って思うから、見ちゃうのでしょう、映画を。
工藤:1985年には『倒錯みだれ縄』(新東宝)というSM映画をやってますね。
しのざき:これも思い出がありますね。縄が凄く痛かったんですよ。それまで、私はSMモノはやらないって言ってたんです。
工藤:それなのにどうして?
しのざき:助監督さんが、「ちょっと縛るだけだ」とか、「痛くないから。すぐ終るから」とか言ってきて。それでも、嫌がっていると、「ワンシーンだけだから」と。実は、ワンシーンだけじゃなかったんですけど、そしてワンシーンが長いの。
工藤:また、嫌と言えない性格が出てしまったんですね。
しのざき:そうなんです。それで、凄く寒いセットで、スタッフは、ストーブに当っているけど、私は縛られたまま、土間に転がされてほったらかしです。その時は、メークさんとか毛布をかけてくれる人もいなくて、「寒い」と言っても、「もうすぐ(撮影を)やるから待ってて」とか言われちゃって。もう泣きそうでした。それに、縄が本当に痛くて…。SMをちゃんとやったのはこれだけじゃないかな。軽いのは後でやってますけど、この時は本気で、マジで泣いてました。
工藤:公開が4月だから、撮ったのは多分2月とかだったのかな。寒かったでしょうね。
しのざき:そう、セットが古くて、コンクリートみたいなところで…。
工藤:SMって、そういう寂れた場所を撮影に選びますよね。
しのざき:助監督さんに「聞いてない、こんなにやらないって言ったのに!」って文句を言ったら、「そんなに痛くないでしょ」とか言っちゃって。もう、体に縄の跡が付きまくりで、痛くて、痛くて。
工藤:僕も日活時代にロマンポルノでSM映画の助監督をやりましたけど、スタンドインで、縄で吊るされたり、ロウソクを垂らされたりしました。実際には、縄は痛いし、ロウソクは熱い。でも、女優さんには、本番前ににっこり笑って「痛くないですよ」とか「熱くないですよ」とか言って、安心させるのが役目なんです。
しのざき:でも、その時は痛いのと、寒いので、「もう帰りたい」って言ったんですけど、帰してくれるはずもなく、本当にドーッと涙が出て来て…。
工藤:それは、可哀想でしたね。
しのざき:「私は、こんな事するために生きてきたんじゃない!バカじゃないの私って」と思って。そこまで、悲観的になっちゃって、でも、それを言葉にして言えなくて、痛いまま、ずっと泣いてました。
その3「私、芝居が好き?女優への目覚めと、エクセス初出演」へ続く。